期待の早熟ルーキーにちょっとしたはなむけ。
来週はじめての現場なんですよ!って人と話をしました。
「これからDJ始めるんです!」って人には、これまで何人も出会いました。
みなさん、本当に無邪気で、全員キラキラした瞳で、いきいきとした表情で、自分の無限の可能性、音楽の可能性に疑いを持つことなく、コントローラーを触っていました。
しかし、この前出会ったプレイヤーさんは違います。
まだ何も始まっていないのにメチャメチャ悩んでいました。
その理由が、少し話して分かりました。
セットリストが決まらない、と。
もうその辺でイイんじゃない?と周囲に言われる、でも、もっと良い形がある気がするから、もっと考えたいんだ、と。
あー、気の毒に。それは中級者の悩みだよ。そんな風に思いました。
お話を聞くと、某アニクラ界のスタープレイヤーにDJの本質を教わったそうですね。
だから「スキルは子ども、頭脳は大人」。悩みだけ先に肥大してしまった感じ。
僕もその本質を又聞きしましたが、要するに「繋がらんもんは、繋がらん」ということです。
あーあ、言っちゃったよ。初心者に。
「わーい、ミックスとカットインで何でもつながるね!」
初心者はそれでいいんです。全然。
自分の生み出す音楽、つなげた音楽、全てが可能性。そういうことで。
しかし件のルーキーさんは、スタープレイヤーに触れてしまったため、早々に気づいてしまいました。
「あれもこれも、通らないんだ」「自分のアイデアは、ほとんどダメなんだ」と。
何がどうダメなのかはひとことには言い表せません。
楽曲のジャンル、ルーツ、テンポ、フロアのニーズ、同業者からの冷ややかな目……諸々の理由から「通らない」「無理スジ」ということを意識する。
本当は無限でも自由でもなんでもなかったんだ。
有限なんだ。不自由なんだ。がんじがらめなんだ。
そこからDJの長い長い苦悩が始まります。(※個人の感想です)
かわいそうに。せめて1年くらい無邪気に楽しみたかったですね。
ただ、ただですね。言いたいことがあります。DJとして、どんなプレイがしたいです?
自分自身の個性が存分に発揮されて。
自分自身のことをよく理解してもらえて。
センスがあるなあ、ユニークだなあ、と評価されて。
共感を呼ぶようなプレイがしたい。ですよね。
そこで問題。
では、上記のプレイを達成するためには、
①あれもこれもダメ、規制だらけの中で、かつ、お客さんの関心も引きつつ戦うことを強いられている環境
②あなたの感性が一番大事。周囲を気にせず、個性豊かに、何をしてもいいと言われている環境
どっちの方がよい環境だと思います?
正解は圧倒的に①です。僕はそう思います。
オタクションのクルーにもそう仕向けています。そう。あれはパワハラじゃないんだよ。
なぜか。
①って要するに「現場に溶け込むよう、周囲と違和感のないよう、フロアに支持されるよう『普通に』やってくれ」ってコトですよね。
プレイヤーはオーダーを受けて、おっかなびっくり歩きはじめます。
「普通ってこう始まるのかな」「普通ってこの曲でしょ?」「普通に考えて、この曲が一番盛り上がるよね」
その全部が、はっきり言ってメチャクチャなんです。ズレてるんです。
ヘタすりゃ笑われるくらい。
「普通にやろうとしてるのに、どうしてズレちゃうの!何で笑うの!」
って場面に出くわすでしょう。
でも皮肉なことに、そのズレこそを個性、センスって言うんですよね。(※)
ウルトラマンマックスからのマッドマックスは卑怯! #特撮音楽倉庫 pic.twitter.com/ih448HQQkH
— しょぼぴん(YZMしょういち・45歳児) (@shobopin) 2016年10月2日
例えばコレね。
MADMAXは僕らのアイコンであり、スピリットそのものですので、やらないわけにはいかない。
しかし、特撮音楽倉庫の現場では誰からも、全く求められていない。
だから、僕らはウルトラから折り合いをつけ「普通に」流れの中に「何の違和感も感じないように」紛らせている。
マックスからマックス。これ、僕らにとっては余裕で「無罪」なんです。
でも、世間とは「無罪」「有罪」の基準が大幅にズレていたらしく、こうしてピックアップされることになりました。
なるほど、これが僕らの「個性」だったんだ。
と、他人の目を通して気づかされるわけです。
逆に②の現場だとします。
「こんにちは!皆さん楽しんでますか?戦隊ライダーウルトラ好きですか?
でも僕らはMADMAXが好きです!それでは聴いてくださいOut of control!」
これ「個性的」です?そうじゃないですよね。これはただの「マナー違反」です。
マナー違反で個性を発揮していいのは「荒れる成人式」だけ。
しかし「荒れる成人式」でメディアに取り上げられる方々は、ご自身の感性を大切にし、周囲のTPOを気にせず自由奔放に振る舞っていますが、決して「個性的」とは言われません。
むしろ「面倒くさいなあ」「ワガママだなあ」「ベタだなあ」と思いますよね。
不思議でしょ。要は「アナ雪」のエルサなんですよ。
雪山で好き放題、城を作りながら「ありのままに」歌って過ごしているエルサは「クソ面倒くさい自分勝手な女」ですが、王宮で、周囲と折り合いをつけようと必死で普通に振る舞うエルサはおかしみがあってとてもチャーミング。
「ユニークで個性的な女の子」ですよね。
「ありのまま」は個性でなく「欺瞞」こそが個性なんだ、と僕は思います。
と、いうわけで、期待のルーキーさん。もうすぐ現場ですね。
悩みとともに生まれてしまったからには、今もおおいに悩んでいらっしゃるんでしょう。
どうせ悩むなら、いかに奔放に、自分を発揮するかに落ち着かず、最後まで「キチンと普通にルールを守って多くの人を納得させるDJをするにはどうしたらいいか?」を悩み抜いてほしいなーと思います。
「みんなきっとこういうテーマに関心があるんでしょ?」
「自分この曲だけは通したいけど、このアイデアなら勘弁してくれるでしょ?」
「この流れ!絶対みんなこういうの好きでしょ!」
当日も、色んな制約にがんじがらめ。恐ろしくぎこちない中、変な緊張が全身に走り、足はがくがく。
それでも「楽しくてしょうがない」って言う顔をしながらブースに立つハメになります。
制約だらけ、欺瞞だらけなんです。何もかも。
その姿を見て、笑いながら「そんな欺瞞はやめなよ。もっとリラックスして『ありのままに』やりなよ」と声をかけてくれる人もいるでしょう。
でもどうかな。本当は、その欺瞞に耐え抜いたときにこそ、DJは最大に個性が発揮できて、最高に面白いことが出来るんじゃないのかな、と。
だから、今まさに窮屈だ、でも全員振り向かせたい、あぁ自分背伸びしている、と感じていればそれだけ、正解は近いんじゃないかな、と、どこまでも僕の感想ですが、思います。
がんばってね。
(※)ちなみに「普通」を狙って、ホントに持ち時間全部「普通」を続けられる「普通」のDJさんもいます。そういう方は……その……誠実な人間性が素晴らしいな、と。